前回までの記事では、形の知覚、運動の知覚を扱ってきました。今回取り上げるのは「色の知覚」です。
もちろん、色の感じ方にも私たちの脳や目の仕組みが深く関わっています。
色相や彩度、残像現象など、ふだんの生活の中でも感じられる“色の不思議”に一緒に触れてみましょう。
今回の参考書籍

色を構成する三つの軸|色相・彩度・明度とは?
色相とは「色の種類」
「色相(しきそう)」は、赤・青・黄色などの「色の違い」のことです。
たとえば、りんごの赤と空の青は色相が異なります。これは、光が持つ波長の違いによって、脳がそれぞれ違う色として知覚するためです。
彩度とは「色の鮮やかさ」
「彩度(さいど)」は、色のあざやかさ、純度を表す言葉です。
たとえば、くっきりした真っ赤なバラは彩度が高く、色あせたピンクの花は彩度が低い状態です。色にどれだけ「他の色が混ざっていないか」で、彩度は決まります。メインではない光の波長が混ざる割合が増えると、彩度は低く見えるようになります。
明度とは「色の明るさ」
「明度(めいど)」は、色の明るさを意味します。
水色とネイビーでは、水色のほうが明度が高く感じられます。これは、物体に反射して目に届く波長の量(光のエネルギー)が多いと、より明るく感じられるためです。ただし、光の量を2倍にしても、明るさの知覚は単純に2倍にならないという点には注意が必要です。
補足:感じ方の物理量について研究したのが「精神物理学」という分野です。以前書いた記事を参考にしてみてください。
光と絵の具の違い|加法混色と減法混色
加法混色は「光を混ぜる」
テレビやスマートフォンの画面は、赤・青・緑の光を組み合わせることで色を作っています。これを「加法混色(かほうこんしょく)」と呼びます。光の色を足していくと、最終的には白い光になります。
減法混色は「絵の具を混ぜる」
絵の具で色を混ぜると、どんどん暗くなっていきますよね。これは「減法混色(げんぽうこんしょく)」です。混ぜるたびに光を吸収する性質が増え、最終的には黒に近づきます。
身近な例でイメージしてみよう
ネオンのカラフルな看板は光(加法混色)、絵を描くときの色づくりは物質(減法混色)というように、ふだんの生活でも2つの違いを感じ取ることができます。
色が残るふしぎ|色残像と脳の働き
色残像とは?
色残像とは、ある色をじっと見つめたあとに視線を別の場所に移すと、見ていないはずの色が目の前に残って見える現象のことです。たとえば、赤い丸を数十秒見続けたあとに白い壁を見ると、そこに緑色の丸が浮かび上がって見えることがあります。これは、目や脳のしくみによって起きる、私たちの知覚の不思議な体験です。
補色残像
色残像の中でも代表的なのが「補色残像(ほしょくざんぞう)」です。これは、もとの色の補色(反対の色)が見えるという現象です。たとえば、黄色を見続けると青みがかった残像が現れます。これは、網膜の中にある色を感じ取る細胞(錐体細胞)が一部だけ疲労し、バランスを取ろうと脳が逆の色を「見せている」からです。
陽性残像
残像にはもうひとつ、「陽性残像(ようせいざんぞう)」というタイプもあります。これは、強い光やまぶしい場面を見たあとや、明るい部屋の照明が急に消えたあとなどに、元の色と同じ色が一瞬だけ残って見える現象です。カメラのフラッシュを見たあとに、しばらく光の模様が目に残っているような体験が、それにあたります。
陽性残像は、網膜が強い刺激を受けた後に、その反応が一時的に持続することで起こります。こちらも光の波長と視細胞の反応の影響を受けていますが、視細胞の疲労による補色残像とはしくみが少し異なります。
心理学から見る色の理論|三原色説とその課題
三原色ってなに?
「赤」「緑」「青」の3つの光の色を組み合わせると、ほとんどすべての色を作り出すことができます。これが「三原色説」です。テレビやスマホの画面もこの仕組みを利用しており、小さな赤・緑・青の光を組み合わせて画像を表示しています。
ヤング=ヘルムホルツ説とは?
この三原色説を科学的に説明したのが、「ヤング=ヘルムホルツ説」です。19世紀にトーマス・ヤングとヘルマン・フォン・ヘルムホルツという2人の科学者が提唱しました。彼らは、人間の目の中には3種類の光を感知する細胞(錐体細胞)があり、それぞれが赤・緑・青の光に反応していると考えました。
この説は、なぜ色を混ぜるとさまざまな色ができるのか、という疑問に答えるものでした。
三原色説だけでは説明できないこともある
三原色説は多くの現象を説明できる便利な理論ですが、すべてを説明できるわけではありません。
たとえば、前のセクションで紹介した「補色残像」は、三原色説ではうまく説明できません。また、「赤みのある緑」や「青みのある黄色」といった色の組み合わせは、理論上は可能でも、人間の目では同時に知覚することができません。
そこで登場するのがへリングが提唱した「反対色説」です。これは、赤と緑、青と黄、黒と白といった対になる組み合わせが色覚の基礎にあり、互いに打ち消し合うとする考え方です。現在では、三原色説と反対色説の両方が、色の知覚を理解するうえで重要だとされています。
まとめ|色の感じ方を再確認してみよう
色の知覚は、ただ「見えているだけ」の現象ではなく、脳と心がつくり出している複雑な働きです。色相・彩度・明度の違いや、混色のルール、そして残像現象などを知ることで、色の感じ方がより豊かになります。
ものを見るときに、光の当たり方や色の変化などを意識してみるだけでも、あなたの毎日に新しい発見が生まれるかもしれません。
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