「なんであの人は私に冷たいの?」「あのグループってみんな同じに見えるよね」…そんなふうに思ったことはありませんか?実はそれ、無意識のうちに“認知バイアス”が働いているのかもしれません。
今回は、私たちの考え方や感じ方に影響を与える「認知バイアス」の中でも、とくに身近な例が多い「帰属」と「ステレオタイプ」が関わる現象に注目してご紹介します。
今回の参考書籍

帰属|人の行動を「性格」のせいにしがちな理由
「帰属」とは?
私たちは日常の中で、「なぜこんなことが起きたんだろう?」と考えることがあります。このように、出来事や他人の行動の原因を推測し、意味づけようとする心のはたらきを、心理学では「帰属」と呼びます。
この考え方は、心理学者フリッツ・ハイダーによって提唱されました。ハイダーは、帰属を大きく2つに分けました。
- 内的帰属:原因をその人の性格・能力・努力など、個人の内側にある要因とみなすこと。
- 外的帰属:原因を状況・運・環境など、個人の外側にある要因とみなすこと。
たとえば、テストでいい点をとったとき、「努力したからだ」と考えるのは内的帰属。「問題が簡単だったから」と考えるのは外的帰属です。
人がどちらに帰属するかによって、感じ方やその後の行動も変わってくるため、認知や推論の個人差や歪みを考える上で、帰属傾向の研究が注目されています。
人の行動を「その人らしさ」で片づけてしまう
たとえば、誰かが無愛想な態度を取ったとき、「あの人は冷たい人だ」と感じたことはありませんか?このとき、その人の性格や態度=内的要因に原因があると判断しています。しかし、もしかしたらその人はたまたま疲れていたり、急いでいたりしたのかもしれません。
このように、その人の内面(性格や能力)を行動の原因として過大評価してしまう傾向のことを、「根本的帰属エラー(対応バイアス)」といいます。
たとえば、クイズ番組で出題者が難しい問題を出すと、「この人は頭がいい」と思いがちですが、実際は「出題者の役割」として事前に準備されているだけかもしれません。
自分と他人で理由のつけ方が違う
さらに私たちは、自分の行動と他人の行動で、原因のつけ方に違いをもたせてしまう傾向があります。
- 自分の失敗は「状況のせい(外的帰属)」にしがち
- 他人の失敗は「その人のせい(内的帰属)」にしがち
このような傾向を「行為者・観察者バイアス」といいます。
また、成功と失敗で使い分けることもあります。
- 自分が成功したとき:「自分の努力のおかげ(内的帰属)」
- 失敗したとき:「運が悪かっただけ(外的帰属)」
これは「セルフ・サービング・バイアス」といいます。
セルフ・サービング・バイアスには、①自尊感情の維持・向上のため、②努力と成功の関係は知覚しやすいため、という2つの説明がされています。しかし、文化の影響も大きく、アジアでは逆に、「成功-外的帰属・失敗-内的帰属」という結果がでることも報告されています。
「バイアス」を知ると人間関係が変わる
帰属のバイアスは、ちょっとした誤解やすれ違いの原因になることがあります。でも、このバイアスに気づくだけでも、相手の立場に立って考えることができるようになります。
たとえば、「あの人は冷たい人なんだ」と決めつける前に、「もしかして今日は忙しくて余裕がなかったのかも」と考えるだけで、気持ちが少し楽になるかもしれません。
ステレオタイプ|“みんな同じ”という思い込み
自分の集団をひいきしてしまう
私たちは、自分が属するグループに対しては好意的に考えやすい傾向があります。
たとえば、同じ出身地の人に親しみを感じたり、自分の学校や職場を他よりも良く思ったりすることはありませんか?
これは「内集団バイアス」と呼ばれ、自分の属する集団(=内集団)を高く評価し、好意的な態度や行動をとる傾向です。このバイアスは仲間意識を育てる一方で、外の人への偏見を生みやすくもなります。
「あの人たちはみんな○○だよね」は要注意
逆に、自分とは違うグループの人たち(=外集団)に対しては、「あの人たちはみんな同じだ」と思いやすくなる傾向があります。これが「外集団均質化効果」です。
たとえば、「最近の若者は〇〇だ」「○○国の人は△△だ」といった言い方には、このバイアスが含まれていることがあります。でも、実際にはどんな集団にもいろんな人がいるはずですよね。
思い込みを手放すには「気づく」ことが一歩目
ステレオタイプは、ときに便利な「思考の近道」として働きますが、私たちの視野を狭めてしまうこともあります。自分の中にある思い込みに気づき、「本当にそうだろうか?」と立ち止まるだけでも、対人関係がやさしくなります。
たとえば、「若者は…」と言いたくなったときに、「でも、そうじゃない人も知ってるな」と考えてみることが、柔らかいコミュニケーションの第一歩になります。
まとめ|思い込みに気づくことで、心がちょっと自由になる
今回ご紹介した「帰属」や「ステレオタイプ」は、じつは日常生活をスムーズに過ごすために必要な思考の枠組みなのです。「ヒグマ=危険」という枠組みがなければ、見るからに危険なヒグマに自ら近づいて話しかけてしまうかもしれません。
しかし、ときに非合理的な判断の原因にもなったりもします。でも、こうしたバイアスに気づくことができれば、少しだけ他人にやさしくなれたり、自分を責めすぎずにすんだりするヒントになります。
「なんであの人はあんなことをするんだろう?」と感じたときこそ、今日学んだバイアスの存在を思い出してみてください。もしかしたら、ちょっと違う見方ができるかもしれません。
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