いつも見たり聞いたりしている世界。それは、ただの「感覚」だけではなく、「知覚」という仕組みが働いているおかげで成り立っています。
たとえば、自分に関係のある言葉だけが聞こえてきたり、遠くにあるものを「小さい」とは思わなかったり…こうした不思議な現象の裏には、私たちの脳が感覚情報をどのように処理しているかが関係しています。
今回は、「感覚と知覚のちがい」や「情報を選ぶしくみ(選択的知覚)」、「世界を安定して理解するための仕組み(知覚の恒常性)」について、できるだけわかりやすくお話しします。「なんとなく知っていたこと」が、「なるほど、そういうことだったのか!」に変わるかもしれません。
今回の参考書籍

感覚と知覚のちがい|「感じている」のに「気づいていない」?
感じることと、わかること
まず、「感覚」と「知覚」の違いから確認しておきましょう。
感覚とは、目や耳などの感覚器官が何らかの刺激を受け取り、それが脳に送られて生じる体験のことです。たとえば、光が目に入る、音が耳に届くなどの体験そのものが感覚のはたらきです。
一方で、知覚とは、感覚によって得られた情報を脳が選別したり、整理したり、意味づけたりすることで生じる体験のことを指します。つまり、「ただ感じる」だけではなく、「それが何かを理解する」のが知覚なのです。
感覚は“受け取る”、知覚は“わかる”
たとえば、赤いリンゴが「赤いリンゴ」として見えているのは知覚のおかげです。感覚だけでは、「赤い光が見える」ということしか分かりませんが、知覚がはたらくことで「これはリンゴだ」と判断できるのです。
また、手に持っているスマホをなぜか探してしまうという現象も、この「感覚」と「知覚」の差を表しています。視界の中には間違いなく入っており、手にも持っていると「感じている」ものの、知覚はそれに「気づいていない」ということがあり得るのです。
知覚は情報を選んでいる|カクテルパーティ効果とは?
「必要な情報」だけを選んでいる
私たちは、日常生活の中ですべての感覚情報を知覚しているわけではありません。
人混みの中でも、自分の名前だけはハッキリと聞こえた経験はありませんか?
これは「カクテルパーティ効果」と呼ばれる現象で、自分にとって大事な情報が無意識に選ばれて、知覚されやすくなることを意味します。
このように、私たちは知らず知らずのうちに、必要な情報を選んで知覚しているのです。これを「選択的知覚」と呼びます。
心が選ぶ情報のクセ
選択的知覚には、いくつかの「傾向」があります。
- 知覚的鋭敏化:たとえば、赤ちゃんが生まれたばかりの人は、街を歩いていても自然とベビーカーに目がいく…そんなふうに、今の自分にとって価値がある情報が選ばれやすくなること。
- 知覚的防衛:反対に、自分が触れたくない話題やタブーとしていることは、無意識に知覚されにくくなることもあります。
つまり、私たちの心が「見たいもの」や「見たくないもの」を無意識に選んでいることがあるんですね。
世界が安定して見える理由|知覚の恒常性というしくみ
大きく見えても「大きくなった」とは思わない
たとえば、人がこちらに歩いてくると、目に映る姿(網膜像)はどんどん大きくなります。けれど、私たちは「この人、巨大化してる!」とは思いませんよね?
これは大きさの恒常性という知覚のしくみが働いているからです。見た目が変わっても、本当のサイズは変わっていないと脳が判断してくれているのです。
明るさや色も安定して見える
知覚の恒常性には他にも次のような種類があります:
- 明るさの恒常性:照明の明るさが変わっても、物の明るさはそれほど変わって見えない。
- 色の恒常性:夕方のオレンジ色の光の中でも、リンゴはちゃんと赤く見える。
- 形の恒常性:ドアを斜めから見て形が変わって見えても、「ドアは長方形だ」と分かる。
このように、私たちは知覚のおかげで変化の中に一貫性を見出し、世界を安定して認識できているのです。
まとめ|知覚の理解が広げる日常の見え方
知覚とは、ただ感覚を受け取るだけでなく、脳が情報を整理して「意味ある体験」としてくれる働きのことでした。
選択的知覚のように、自分にとって大切な情報が選ばれたり、知覚の恒常性によって変化しても安定して見えたりと、私たちが日常を快適に過ごせるのはこの仕組みのおかげです。
この記事を通じて、「なぜこの情報だけが目につくのか?」「なぜ形が変わってもモノとして認識できるのか?」といった、これまで無意識だった感覚の世界に少し意識が向いたなら嬉しいです。
これからは、何気ない日常の中でも「今、自分はどう感じて、どう知覚してるんだろう?」とちょっと立ち止まって考えてみてください。世界の見え方が、少しだけ豊かになるかもしれません。
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