私たちは、風景を「そのまま目で見ている」だけではありません。明るい場所と暗い場所で見え方が変わったり、平面の画像から奥行きを感じたり…。実は、見えている世界は脳と目が協力して作り出している「知覚」の世界です。
この記事では、「明暗の知覚」と「奥行きの知覚」について、日常にある例を交えながらやさしく解説していきます。いつもの風景を楽しむヒントがきっと見つかります。
今回の参考書籍

明るさの感じ方のしくみ|明所視・暗所視と順応
明るい場所と暗い場所では、目の使い方が変わる
私たちの目には、光を感じ取る細胞が2種類あります。それが「錐体細胞(すいたいさいぼう)」と「桿体細胞(かんたいさいぼう)」です。
明るい場所では「錐体細胞」が、暗い場所では「桿体細胞」が主に働くようになっていて、それぞれの働きに応じて私たちは環境に適応した見え方をしています。
この仕組みをそれぞれ「明所視(めいしょし)」と「暗所視(あんしょし)」と呼びます。
たとえば昼間に外を歩いているときは、錐体細胞が活躍して色や細かい形をはっきり捉えています。一方、夜や暗い部屋では桿体細胞が働き、色の区別はつきにくいけれど、暗がりでもぼんやりと形が見えるようになります。
明るさに慣れる目の調整
暗い映画館から外に出たとき「まぶしい!」と感じたり、逆に明るい部屋から暗い部屋に入って最初は何も見えなかったけど、しばらくするとだんだん見えてくる――
このような、目が環境に慣れていく働きを「順応」といいます。
明るい場所に慣れることを「明順応(めいじゅんのう)」、暗い場所に慣れることを「暗順応(あんじゅんのう)」と呼びます。私たちの視細胞は、光の強さに応じて感度を変えることで、さまざまな環境でもスムーズにものが見えるように調整しているのです。
プルキンエ現象ってなに?
暗いところで見ると、赤い花がなんだかくすんで見えて、青や緑のものの方が明るく感じたことはありませんか?
これは「プルキンエ現象」と呼ばれる現象です。
明るい場所でよく働く錐体細胞は、黄色や赤に近い光に反応しやすい一方、暗い場所で働く桿体細胞は、青や緑っぽい光に敏感です。そのため、明るさによって目立つ色が変わるのです。
奥行きのとらえ方|平面の世界に「立体」を見るには
両目で見ることで奥行きが生まれる
私たちが立体的にものを見られるのは、両目を使って世界を見ているからです。このときに脳が参考にしている情報を「両眼手がかり」といいます。
たとえば、近くのものを見るときには、目が自然と内側に寄ります。この目の動きを「輻輳(ふくそう)」と呼び、見る対象の距離によって調整されています。
また、左右の目は少し離れているため、それぞれの視線の方向やそれぞれの目に映る映像にはわずかなズレがあります。前者を「両眼視差(りょうがんしさ)」、後者を「両眼像差(りょうがんぞうさ)」といい、これらを参考にして脳は対象との距離を知覚しているのです。
このズレを脳が利用することで、私たちは目の前の世界を「奥行きがある立体」として知覚できるのです。3D映画やVRゴーグルが立体的に見える仕組みも、この両眼手がかりを活かした技術です。
片目でも奥行きはわかる?
両目を使った手がかりがなくても、片目だけである程度の奥行きを感じることができます。これを「単眼手がかり」と呼びます。
たとえば、1つの物が別の物の前にあって一部を隠しているとき、「手前にあるんだな」と自然に感じられますよね。これは「遮蔽」という手がかりのひとつです。
また、私たちは近くのものを見るとき、自動的に水晶体の厚さを変えてピントを合わせています。この働きは「調節」と呼ばれ、対象までの距離を判断する材料になります。
こうしたさまざまな手がかりを、脳が組み合わせて距離感や奥行きを判断しているのです。写真や絵を見ていても、なんとなく立体感を感じるのは、このしくみが働いているからです。
まとめ|日常の風景がちょっと面白くなる
目で見ている世界は、実は目だけで作られているわけではなく、脳が情報を処理して「見え方」を決めています。明るさの違いや、平面から奥行きを感じる不思議な現象も、その一部です。
この記事で紹介したように、明所視・暗所視、順応の仕組み、そして単眼・両眼による奥行きのとらえ方は、普段何気なくしている「見る」ことの奥深さを教えてくれます。
目の前の風景をぼんやり眺めたとき、「今、目と脳がどんな風に働いているのかな?」と少し意識してみてください。見慣れた世界が、ちょっと違って見えるかもしれません。
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