人は生まれてから年を重ねる間に、心も少しずつ成長していきます。けれど、私たちの「心の成長」には、実はそれぞれの時期ごとに乗り越えるべき課題があることを知っていますか?
この記事では、心理学者エリク・エリクソンが提唱した「ライフサイクル論(生涯発達理論)」をもとに、人生を8つのステップにわけて、どんな成長やチャレンジがあるのかをわかりやすく紹介していきます。「今の自分は、どんな時期にいるんだろう?」「なんだか最近、悩みが多いけど大丈夫かな?」
そんなふうに感じている方に向けて、エリクソンの考えを初心者にもやさしく解説していきます。読み終わるころには、自分やまわりの人の心の成長について、きっと新しい視点が得られるはずです。
今回の参考書籍

エリクソンのライフサイクル論とは?|人は一生かけて成長する
エリクソンが考えた「人生の成長地図」
私たちは、赤ちゃんからお年寄りになるまで、ずっと心が成長し続けます。
エリクソンという心理学者は、人が成長する過程を8つのステップにわけて考えました。
この考え方を「ライフサイクル論」といいます。
エリクソンは、とくに青年期(12〜22歳ごろ)を大切に考えました。
この時期は「自分って何者なんだろう?」「これからどう生きていこう?」と悩む時期。
悩みながら、自分らしさ(=アイデンティティ)を見つけていくと考えました。
モラトリアムってなに? 迷う時間も大事!
エリクソンは、青年期の「迷いの時間」をとても大切にしました。
この時間のことをモラトリアムと呼びます。
モラトリアムとは、「ちょっと待った!」の時間。
すぐに大人として責任を持つのではなく、いろいろなことを試しながら、じっくりと自分探しをするチャンスなんです。
たとえば、いろんな部活に入ってみたり、アルバイトをしてみたり、自分に合う道を探すのも、モラトリアムの一部です。
ライフサイクルの8つのステップ|それぞれにチャレンジがある
「発達課題」と「心理社会的危機」とは?
人は成長する中で、その時期ごとに乗り越えるべきテーマがあります。
これをエリクソンは「発達課題」と呼びました。
たとえば、赤ちゃんの頃なら「周りを信じる」、思春期なら「自分らしさを見つける」ことが課題になります。
もしその課題がうまくクリアできないと、心の中に不安や葛藤が生まれることがあります。
これが「心理社会的危機」です。
たとえば、周りを信じることができなかったら、人間関係に不安を感じやすくなるかもしれません。
エリクソンは、こうした課題と危機をひとつずつ乗り越えながら、人は心を成長させていくと考えました。
① 乳児期(0~1.5歳)|基本的信頼 vs 基本的不信
発達課題:世界を信じる力を育てる
生まれて間もない赤ちゃんにとって、世界はとても新しく不安なもの。
この時期に、周りの大人たちが愛情を持って応えてくれることで、「世界は安全なんだ」と感じる基本的信頼が育まれます。
心理社会的危機:人や社会を信じられなくなる
逆に、泣いても放っておかれたり、不安な気持ちに寄り添ってもらえなかった場合、基本的不信が育ってしまいます。
すると、他人を疑ったり、人生そのものに対して不安を感じやすくなります。
② 幼児前期(1.5~3歳)|自立性 vs 恥・疑惑
発達課題:自分でやろうとする気持ちを育てる
この時期の子どもは「自分でやりたい!」という気持ちが強くなります。
うまくサポートしてもらうことで、自立性が伸びていきます。
心理社会的危機:失敗を恐れて自信を失う
もし厳しすぎたり失敗を責められたりすると、子どもは自信をなくし、恥や疑いの気持ちを持ちやすくなります。
③ 幼児後期(3~6歳)|積極性 vs 罪悪感
発達課題:やってみたい気持ちを応援する
子どもは空想したり、冒険したりして積極的に行動します。
自由なチャレンジが許されることで、積極性が育ちます。
心理社会的危機:チャレンジすることを恐れる
逆に、叱られすぎたり、抑えつけられると、「自分は悪い子なんだ」と感じ、罪悪感を持つようになります。
④ 学童期(6~12歳)|勤勉性 vs 劣等感
発達課題:努力する力を育てる
学校に通い始めると、子どもは勉強やスポーツを通して努力を覚えます。
うまくいく経験を積み重ねることで、勤勉性が育ちます。
心理社会的危機:自分はダメだと思い込む
努力が認められなかったり、失敗ばかり指摘されると、劣等感が強くなり、「どうせ自分はできない」と思い込むようになります。
⑤ 青年期(12~22歳)|アイデンティティの達成 vs 拡散
発達課題:自分らしさを見つける
思春期の若者は、「自分とは何者か?」を真剣に考え始めます。
いろいろな経験を通して、自分らしい生き方(アイデンティティの達成)を目指します。
心理社会的危機:自分がわからなくなる
探求をうまく進められなかった場合、何を目指せばいいのか分からなくなり、アイデンティティの拡散(迷走状態)に陥ります。
この時期は、大人になるための猶予期間として「モラトリアム」と呼ばれることもあります。
⑥ 成人期(22~35歳)|親密性 vs 孤立
発達課題:深い人間関係を築く
大人になり、恋愛や友情、仕事仲間など、心から信頼できる関係を築くことが大切になります。
これがうまくいくと、親密性が育ちます。
心理社会的危機:孤独を感じる
人と心を開いて付き合うことができないと、孤立感を強く感じ、生きづらさにつながります。
⑦ 中年期(35~60歳)|生殖性 vs 停滞
発達課題:次世代へ何かを伝える
仕事や子育てを通じて、社会や次の世代に貢献しようとする気持ち(生殖性)が育ちます。
心理社会的危機:成長をあきらめてしまう
もし目標を見失ったり、社会とのつながりを感じられなくなると、停滞感に陥り、自分の成長を止めてしまうことになります。
⑧ 老年期(60歳以降)|統合性 vs 絶望
発達課題:人生を受け入れる
これまでの人生をふりかえり、「良い人生だった」と納得できると、統合性(心のまとまり)が育ちます。
心理社会的危機:後悔と絶望にとらわれる
逆に、後悔ばかりが残ると、「もっとこうすればよかった」と思い悩み、絶望感に支配されてしまいます。
まとめ|人生は成長の旅
エリクソンのライフサイクル論からわかるのは、「人は一生成長し続ける」「人生にはその時々にしかできない成長がある」ということです。
どの時期にいても、成長するチャンスが必ずあるんです。
迷ったり、悩んだりするのも、ぜんぶ大事な経験。焦らず、自分のペースで歩んでいきましょう!
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