どんなに大きな困難があっても、立ち上がり、前に進む力──それが「レジリエンス」です。
この記事では、レジリエンスとは何かを、初心者にもわかりやすく紹介していきます。
難しい理論はかみ砕いて、身近な例も交えながらお届けします。
一緒に「折れない心」の秘密を探っていきましょう!
今回の参考書籍

レジリエンスとは?|困難に立ち向かう力
レジリエンスの意味
心理学者ラター(Rutter, M. L.)は、レジリエンスを「深刻な危険性にもかかわらず、適応的な機能を維持しようとする現象」と定義しました。簡単に言い換えると「どんなに厳しい状況にあっても、健全に生き続ける力」のことをいいます。
たとえば、家庭に大きな問題があっても、明るくたくましく育つ子どもがいること──それがレジリエンスの具体例です。
レジリエンスへの注目
レジリエンスの概念は、精神障害者やその家族の研究から見出され、広まっていきました。
すべての人が困難な状況で問題を起こすわけではありません。同じようなつらい経験をしても、前向きに生きられる人もいます。この違いに注目して、心理学ではレジリエンスという概念がとても重要視されるようになりました。
レジリエンスは、私たちが心の中にもっている「回復する力」「しなやかに耐える力」と言い換えることもできます。
レジリエンスは「多面的」な力|すべてに強いわけではない
レジリエンスは、1つの単純な力ではありません。いくつもの面から成り立つ、多次元的な力だと考えられています。
たとえば、こんな研究結果があります。
- 虐待を受けた子どもたちを調べたところ、約2/3は学業成績が良かった(学業についての弾力性は高かった)
- しかし、社会的スキルや友人関係では弾力性が高かったのはわずか1/5だった
つまり、ある領域では適応できても、別の領域では苦しんでいるということが珍しくないのです。
さらに、外見上は問題なく見える人でも、内面では抑うつや不安といった心理的な困難を抱えていることがあります。
これらは、通常の発達をたどる子どもや大人にも同じように見られる現象です。
レジリエンスは一生安定している?|ウェルナーの縦断研究
心理学者ウェルナーは、ハワイで子どもたちを長期にわたって追跡する研究(Werner, 1990)を行いました。
この研究では、弾力性の高い子どもたちは、その後30年にわたり、日常生活でも高い機能を維持していたことがわかりました。
しかし、注意しなければいけないのは
- レジリエンスは「一度育てば一生安泰」というわけではない
- 人生の時期や環境の変化によって、必要とされる心の力は変わる
- そのため、発揮されるレジリエンスの面も変わる
ということです。
つまり、レジリエンスは成長し続けるものであり、常に新しい環境に適応しながら発揮される力だと考えられています。
レジリエンスの4つの因子|森によるレジリエンス尺度から
「I AM」──自分を受け入れる力
「I AM」は、自分自身をまるごと受け入れる力のことです。うまくいかない自分、失敗する自分も「これが自分だ」と認めることができると、心が強くなります。
たとえば、テストで失敗しても「自分はダメだ」と責めるのではなく、「失敗してもやり直せる」と思える人は、I AMの力が育っています。
「I HAVE」──支えあえる人間関係を築く力
「I HAVE」は、信頼できる人とのつながりを持つ力です。困ったときに相談できる友達、話を聞いてくれる家族、助けてくれる先生──そんな人がいるだけで、困難に立ち向かう力はぐっと強くなります。
「一人じゃない」と思えることは、レジリエンスを高めるとても大事なポイントです。
「I CAN」──行動する力
「I CAN」は、問題を乗り越えるための行動力を指します。たとえば、勉強が苦手だと感じても、「どうしたらわかるようになるかな?」と工夫できる人は、I CANが育っています。
「I WILL」──未来を信じる力
「I WILL」は、自分で目標を立て、それに向かって進む力です。小さな目標でも、「やりたいこと」を持っていると、困難を乗り越える原動力になります。
レジリエンスを支える3つのレベル
レジリエンスの土台は、次の3つのレベルに分けて考えられます。
① 地域社会レベル
- 近隣のつながり
- 社会的サポート(福祉・医療・教育など)
地域全体が安全で支えあいの文化があれば、子どもたちも安心して育つことができます。
② 家族レベル
- 親からの温かさや理解
- 虐待の有無
家族の関わり方が、子どもの心に大きく影響を与えます。
③ 個人レベル(子ども自身)
- 知能や学習能力の高さ
- 友だちと良い関係を築くソーシャルスキル
子ども自身の資質や性格も、レジリエンスを高める大事な要素です。
これらは単独ではなく、文化、近隣、家族、友人関係など、様々な枠組み同士の相互作用のなかで機能します。
つまり、どれかひとつが決定的に影響を与えているということはなく、素質や環境などのすべてがレジリエンスにとって重要な要素だということです。
また、様々な枠組みの中で、子ども自身が能動的に動き、環境を変え、自分を成長させていく。
そんな「自己を作り出す力」も、レジリエンスには含まれているのです。
レジリエンスを育てるためにできること
ここまでレジリエンスの構造や要素について解説してきました。
最後に、そこから考えられるレジリエンスの高め方について提案してみます。
小さな成功体験を重ねる
毎日の中で、小さな「できた!」を積み重ねましょう。
たとえば、「今日も学校に行けた」「友達にありがとうが言えた」──それだけでも十分です。
周囲との信頼関係を大切にする
一人で頑張りすぎないで、頼れる人に相談することもレジリエンスを育てます。
完璧を求めず、自分を受け入れる
失敗しても自分を責めすぎず、「それでも大丈夫」と思える心を育てましょう。
まとめ|レジリエンスを育てて毎日をしなやかに生きる
レジリエンスとは、困難に直面しても折れずに立ち上がる力のことです。
ラターによる定義、森による4つの力(I AM、I HAVE、I CAN、I WILL)を知ることで、そのしくみを少しでも理解できたでしょうか。
今日からできる小さな成功体験、信頼できる人とのつながり、そして自分を責めすぎない姿勢──それらを意識するだけでも、あなたのレジリエンスは確実に育っていきます。
無理をせず、少しずつ、自分らしい「しなやかな強さ」を手に入れていきましょう!
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