見落としは脳のせい?|日常にひそむ「注意の不思議」現象

心理学の学びと知識

「あれ?見ていたはずなのに気づかなかった」
実はこれ、脳が私たちの注意をどのようにコントロールしているかに関係する現象なんです。

この記事では、「注意」に関する様々な現象をご紹介します。初心者の方にもわかりやすく、「注意とは何か?」「どうして気づけないことがあるのか?」を、具体例をまじえて解説していきます。

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見えているのに気づけない|「非注意盲」という不思議

ゴリラがいても気づかない?

有名な実験に「見えないゴリラの実験」があります。
「白いシャツを着たチームがバスケットボールを何回パスするか数える」という指示を与え、参加者に動画を見せます。その動画の中には、突然ゴリラの着ぐるみを着た人物が登場します。ですが、多くの人がそのゴリラの存在に気づかないのです。

このように、「注意を向けていないもの」は、たとえ視界に入っていても私たちは気づけないことがあります。これが非注意盲です。実験者であるサイモンズとチャブリスは、この現象が現実の場面でも生じることを示したのです。

2004年度のイグノーベル賞を受賞

この「見えないゴリラの実験」は、2004年にイグノーベル賞(認知科学部門)を受賞しました。
イグノーベル賞は「人々を笑わせ、そして考えさせる研究」に贈られるもので、この実験はユーモラスでありながら、人間の注意の特徴について深い示唆を与えるものとして高く評価されたのです。

視覚だけじゃない!聴覚にも起こる

非注意盲は視覚情報だけでなく、聴覚情報でも生じることが分かっています。
私たちは「注意を向けていること」に集中するあまり、他の情報に気づきにくくなる性質を持っているのです。

余談:この実験に使われた動画はYouTubeにアップロードされています。何もしらない友達に見せてみると面白いかもしれませんね!

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The Monkey Business Illusion by Daniel Simons (journal article: Get our new book, *** Nobody's Fool: Why We Get Taken In...

違和感はあるのに…|「変化盲」のしくみ

画像が変わったのに気づけない?

あなたは間違い探しが得意ですか?
一見すると簡単な変化でも、「少しの工夫」があると私たちは気づけなくなることがあります。

たとえば、画像Aと画像A’を、間に空白画面を挟んで交互に素早く見せられると、明らかな違いがあってもすぐには気づけないことがあります。これを変化盲といいます。

見開きページの左右で絵を見比べる本と、ページをまたいで間違いを探す本だと後者のほうが難しそうですよね。

どうしてこんなことが起こるの?

変化盲は、一度見た情報を記憶にとどめ、次の情報と比較するという作業がうまくできないときに起こります。

実際の生活では、誰かの髪型が変わってもすぐに気づかなかったり、部屋のレイアウトが変わっても「なんか違和感あるな?」程度にしか思わなかったりすることがありますよね。
これも「変化盲」が関係していると考えられます。


早すぎると情報を逃す|「注意の瞬き」が示す処理時間の制限

情報が多すぎると「注意が瞬き」する

続いて紹介するのは注意の瞬きという現象です。
これは短い時間に連続して情報が出てくると、2つ目の情報を見落としやすくなるという現象で、レイモンドが発見しました。

実験では、文字が高速で次々に表示される中で、特定の色で表示された2つの文字を覚える課題が出されました。その結果、1つ目の文字のすぐ後(およそ0.2〜0.5秒以内)に2つ目の文字を出すと、正しく認識されにくくなることがわかりました。

なぜ「一瞬の見落とし」が起こるのか?

この現象は、脳が最初の情報処理に集中しているあいだ、次の情報を処理できなくなることが原因とされています。
つまり、注意には「時間的な処理の限界」があるということです。

この性質は、たとえば相手が早口で話してくると内容を取りこぼしてしまうなど、日常のコミュニケーションにも当てはまることがあります。相手に話を伝えるときにはゆっくり話したほうが良いというアドバイスの科学的根拠になるかもしれませんね。


無視したものに足を引っ張られる?|「負のプライミング」とは

「無視した情報」があとで邪魔をする

最後に紹介するのは負のプライミングです。
これは、「直前に無視した情報が、後の処理を遅らせてしまう」という現象です。

ティッパーらの実験では、赤と緑の線画を重ねて提示し、「赤い絵だけを見て名前を答えてください」と指示します。その次の問題で、さっき緑で無視した絵が赤い絵として出てきた場合、名前を答えるスピードが遅くなってしまうことが示されました。

無視した情報が“ブレーキ”になる?

このように、私たちが「無視しよう」とした情報は、単にスルーされるのではなく、その後の情報処理にも影響を及ぼしてしまいます。

この負のプライミングがなぜ起こるのかについては、現在「選択的抑制説」が有力です。
これは、無視すべき刺激を意図的に処理しづらくすることで、注意をそらしやすくしているという考え方です。ところが、その抑制された刺激が後になって必要になると、さっきの「処理しづらくする工夫」が逆にブレーキとなってしまうのです。


まとめ|注意のクセを知って日常に活かす

注意の現象には、「見えているのに気づけない(非注意盲・変化盲)」、「瞬間的に情報を見落とす(注意の瞬き)」、「無視したことに集中しにくい(負のプライミング)」といった特徴があります。
これらはどれも、私たちの脳が効率よく情報処理を行うための仕組みの結果なのです。

一見「失敗」のように思えるこれらの現象も、「注意のしくみ」を理解すれば納得がいくものばかりです。
たとえば、集中しすぎると周囲が見えなくなることや、ちゃんと聞いてたはずの話が頭に入っていないことなども、こうした心理現象の一部かもしれません。

この記事で学んだことを日常生活に当てはめてみて、「今、自分がどこに注意を向けているか」を意識してみてください。それだけでも、見落としやミスを減らすヒントになるかもしれません。


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