日本の心理学はどこから来たの?|日本の心理学史をやさしくたどる

心理学の学びと知識

心理学といえば欧米発祥のイメージがありますが、日本にも独自の発展の歴史があります。この記事では、幕末から昭和初期にかけて、日本の心理学がどのように根付き、どのような人々が活躍したのかを、やさしくたどっていきます。

中級者向けに、心理学が“学問”としてどう広がっていったかの流れも意識してみました。少しディープな話もありますが、余談や補足も挟みながら一緒に見ていきましょう!

今回の参考書籍




「心理学」という言葉のはじまり|西周の功績

幕末の知識人が生み出した「心理学」という言葉

心理学という言葉を初めて日本で用いた人物、それが西周(にし あまね)です。彼は幕末から明治にかけて活躍した啓蒙思想家であり、西洋哲学や近代的な学問を日本に紹介した先駆者でした。

1875年から76年にかけて、アメリカのジョゼフ・ヘヴンによる『Mental Philosophy』を翻訳し、それを『心理学』というタイトルで出版しました。これが、日本語における「心理学」という言葉の最初の登場とされています。

「哲学」と「心理学」の間で揺れるはじまり

ただし、この時代の心理学は今でいう哲学に近い意味合いが強く、実験や統計とはまだ縁遠いものでした。むしろ人間の心を「哲学的に探求する」学問というイメージが強かったとも言えます。
つまり、「心理学」という言葉はあっても、いま私たちが学んでいる科学的心理学とはまだ違ったスタートだったわけです。


心理学の“実践的な学問”としての始まり|元良勇次郎の挑戦

アメリカでの学びを日本に持ち帰った元良勇次郎

次に登場するのは、日本の「心理学者第1号」とも呼ばれる元良勇次郎(もとら ゆうじろう)です。彼は1880年代にアメリカに留学し、当時発展しつつあった実験心理学を学びました。
帰国後は東京帝国大学(現在の東京大学)で心理学の教育と研究を行い、日本で本格的な心理学の土台を築きました。

心理学が「哲学」から独立しはじめた時代

元良の功績は、心理学を哲学の一部としてではなく、実験や観察に基づく科学的な学問として根づかせたことにあります。つまり、心を“データ”として扱い、観察・検証していくという姿勢が、ここから始まったのです。
今日では当たり前のように使われる「心理実験」「心理測定」という考え方のルーツが、ここにあります。


日本心理学史の“黒歴史”?|福來友吉とオカルトのはざまで

福來友吉と“超常現象”の研究

ちょっと異色の存在として紹介されるのが、福來友吉(ふくらい ともきち)です。彼は1900年代初頭に『催眠心理学』という書籍を出版し、心理学的な視点から催眠現象や透視、念写などの研究を行いました。
被験者として有名なのが、彼の妻である三船千鶴子。彼女の能力を用いた数々の実験が行われましたが、やがて「インチキ」との批判が高まり、福來は学界から追放される形となります。

科学とオカルトの分かれ道

この事件は、日本における「科学的心理学」と「オカルト的心理学」との明確な分岐点とされています。当時の心理学界は、「科学」としての信頼性を強く求めていた背景がありました。
この福來のケースは、今でも心理学史の授業などで「心理学の境界線」を考える際に出てくる有名な事例です。

余談:ちなみに、三船千鶴子の念写現象は映画や漫画でもたびたびモチーフになっています。「科学で説明できない心の力」というテーマは、今も多くの人を惹きつける要素なんですね。


学問としての確立と組織化|松本亦太郎と日本心理学会の誕生

元良の後継者として心理学を広めた松本亦太郎

松本亦太郎(まつもと またたろう)は、元良勇次郎の後継者として、大正から昭和初期にかけて心理学の発展に尽力しました。彼自身も海外留学を経験し、帰国後は教育心理学や実験心理学の発展に大きく貢献しています。

日本心理学会の創設と“学問の顔”としての活躍

昭和初期には、ついに日本心理学会が創設され、松本は初代会長に就任します。学会の誕生は、心理学が単なる“個人の研究”から“組織的な学問”へと成長した証です。
以降、日本国内でも心理学が大学教育の一部としてしっかり根づき、臨床、発達、教育などさまざまな分野へと広がっていきます。


まとめ|“心を科学する”道のりをふりかえる

心理学が日本に入ってきてから、わずか150年ほどですが、その間に「哲学」から「科学」へ、さらには「社会の役に立つ知」として進化してきました。
そこには、時代ごとに葛藤や試行錯誤があり、時には逸脱や批判も受けながら、それでも前に進んできた人たちの努力がありました。

心理学を学ぶうえで、こうした“学問の道のり”を知っておくことは、自分の学びへの信頼にもつながるはずです。これからも「心を探究する学問」として、心理学の今と未来を一緒に楽しんでいきましょう!


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