「どうせ無理」と感じる心|学習性無力感を知ることから始めよう

心理学の基本

「頑張っても、どうせうまくいかない気がする」
そんなふうに感じて、何かに挑戦する気持ちが薄れてしまった経験はありませんか?それは、あなたの意志が弱いからではありません。実は、“ある学び”のせいかもしれないのです。心理学では、この現象を「学習性無力感」と呼びます。

この記事では、「学習性無力感」がどうやって生まれるのか、そしてそこから抜け出すヒントを、やさしく紹介していきます。心がちょっと疲れてしまったとき、自分を責めずに前を向けるような、小さな気づきをお届けします。

今回の参考書籍





学習性無力感とは?│やる気がなくなる“学び”

何をしてもダメだと思ってしまう心の仕組み

「がんばってもムダだ…」そんなふうに感じたことはありませんか?
目の前の課題に何度も挑戦しても、失敗が続くと、だんだん「どうせ自分にはできない」と思うようになります。これは「学習性無力感」と呼ばれる現象で、心理学者マーティン・セリグマンによって提唱されました。

セリグマンの研究では、犬が電気ショックを受ける実験が行われました。
あるグループの犬たちは、どんなにあがいても電気ショックから逃れられない環境に何度も置かれます。すると、後になって逃げることができる状況に変わっても、犬たちはそれに気づかず、逃げようともしなくなってしまったのです。

これは、「どうせ何をしても無理」と学習してしまった状態、つまり「無力感」を学んだということになります。

人間にも起こる「こころのブレーキ」

この無力感は、私たち人間にも起こります。たとえば、試験で何度も失敗したり、仕事で一生懸命頑張っても評価されなかったりすると、「どうせ自分はだめなんだ」「努力しても意味がない」と思ってしまうことがあります。この状態が長く続くと、やる気が出ず、何に対しても無関心になったり、自分の価値を低く感じたりするようになってしまいます。

これは、うつ病の一因としても注目されている現象です。とはいえ、「学習性無力感があるからうつ病になる」とは限らず、他にも環境や性格などさまざまな要因が関係しています。

セリグマンとポジティブ心理学

興味深いのは、セリグマンが「無力感」の研究から出発しながらも、最終的には「ポジティブ心理学」という、人間の強みや幸福に注目する新しい心理学の分野を切り開いたことです。

1990年代後半、彼は「ただ問題を見つめるのではなく、どうすれば人はもっと充実して生きられるのか」を研究の中心に据えました。これは、今でいう「ウェルビーイング(well-being)」や「レジリエンス(心の回復力)」にもつながる考え方です。


無力感から抜け出すには?

「できるかも」と思えるステップの工夫

では、無力感から抜け出すにはどうしたらよいのでしょうか?
そのカギとなるのが、「自信を少しずつ取り戻す経験」です。

ここで役立つのが「シェイピング法」という学習法。これは、大きな目標をいきなり達成しようとするのではなく、小さなステップに分けて、少しずつ成功体験を積み上げていく方法です。

たとえば、「人前でプレゼンをうまくできるようになりたい」という目標があったとします。
でも、いきなり大勢の前で自信を持って話すのは、とてもハードルが高く感じられますよね。

そこで「シェイピング法」を使って、小さなステップに分けていきます。
まずは自分の部屋で一人で話す練習から始めてみましょう。次に、録音して自分の声を聞いてみる。慣れてきたら、家族や友達1人の前で発表してみる。さらに次は、2~3人の前で話す……といったように、段階的に「成功体験」を積み重ねていくのです。

こうすることで、「できた」という感覚を少しずつ育てながら、最終的な目標である「人前でプレゼンをする」という難しい課題にも自然と近づくことができます。

結果がすぐにわかるフィードバックがカギ

もうひとつ大切なのが「結果の知識(Knowledge of Results)」、つまりフィードバックです。人は、行動の結果がわかることで、次にどうすればいいのか学ぶことができます。

たとえば、ピアノの練習をしていて、先生から「ここはリズムがずれていたね」とすぐに教えてもらえれば、次から改善できますよね。逆に、間違っていても何も言われなければ、「このままでいいのかな?」と不安になり、やる気がなくなってしまうかもしれません。

ポイント:早めのフィードバックが「軌道修正」や「やる気の持続」に欠かせません。

上達が止まったときこそチャンス!

学んでいると、「最近、なんだか伸びないな…」と感じるときがあります。これを高原現象(こうげんげんしょう)といいます。成長が一時的に止まっているように感じても、実はその裏で知識やスキルが整理され、次のステップに向けて力を蓄えている時期でもあります。

この時期に自分のやり方を振り返ったり、新しい方法に挑戦してみることで、再び成長のスピードが上がることがあります。焦らず、「今は準備の期間なんだ」と考えてみるのもひとつの方法です。


まとめ|心が元気になる学び方を目指して

自分を責めず、ゆっくり進もう

何かがうまくいかないとき、自分を責めてしまう人は多いかもしれません。でも、「学習性無力感」は、環境から学んでしまった反応であり、あなたの性格のせいではありません。まずは、「そう感じてしまうのも自然なことなんだ」と受け入れることから始めましょう。

小さな成功を積み重ねよう

たとえば、難しいことに挑戦する前に、「今日は机に向かえただけでOK」とするだけでも立派な一歩です。「できた」経験を増やすことが、自信を取り戻すカギになります。
自分の成長に気づく「ミニ成功体験ノート」をつけるのもおすすめです。

ポジティブ心理学の考え方を活かす

セリグマンのポジティブ心理学は、まさにこのような「小さな強み」に目を向ける考え方です。感謝の気持ちを書き出す「グラティチュード・ジャーナル」や、自分の長所を活かせた瞬間を振り返るワークなど、心を前向きにする実践がたくさんあります。


今回の参考書籍



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