私たちが「見る」とき、ただ目を開いているだけでは足りません。視覚のしくみは、目から脳まで続く複雑なネットワークによって支えられています。
この記事では、「見る」という感覚がどのように成り立っているのかを、視覚の神経的なしくみからやさしく解説します。目の中の細胞から脳のはたらきまでを、わかりやすく段階的に学びましょう。理科や生物の授業ではピンとこなかった人でも、「なるほど、こういうことだったのか」と楽しんでいってください。
今回の参考書籍

光を感じて色をとらえる|網膜のはたらき
色を見分ける「錐体細胞」
私たちの目の奥にある「網膜」には、光を感じ取るための細胞がぎっしりと並んでいます。その中でも「錐体(すいたい)」という細胞は、明るい場所で物の色を見るときに使われます。
錐体は中心窩(ちゅうしんか)と呼ばれる網膜の真ん中付近に多く集まっています。また、赤・青・緑という3つの色それぞれで反応する細胞の種類が異なり、この3色の組み合わせで、私たちは無数の色を見分けているのです。
明暗をとらえる「桿体細胞」
もうひとつ大事なのが「桿体(かんたい)」という細胞です。これは明るさや暗さを感じる役割を持っています。
桿体は中心窩にはほとんど存在しませんが、それ以外の網膜の広い範囲に分布しており、特に暗い場所で物の輪郭をぼんやりととらえるときに活躍します。映画館や夜道で何となく周りが見えるのも、この桿体のおかげです。
「盲点」のしくみ
網膜の中には「盲点」と呼ばれる、何も見えない場所があるというのは有名な話ですね。
これはちょうど視神経が集約されて目の外に出ていく「出口」の部分(視神経乳頭といいます)にあたり、ここには桿体や錐体が存在しないため、どんな光も感じ取れないのです。
とはいえ、私たちは普段それを感じることはありません。両目を使ったり、脳が自然に情報を補ったりして、うまく見えているようにしてくれているからです。
見たものはどう伝わる?|目と脳の情報ルート
視交差で情報が左右に分かれる
網膜がとらえた視覚情報は、「視神経」というケーブルを通って脳に送られます。ここでちょっと不思議なのは、一方の目で見たものすべてが同じ領域に送られるわけではないという点です。
基本的に人間の感覚は、感覚器官の左右と脳の処理領域の左右で交差しています。つまり、右半身で感じた感覚は脳の左半球で、左半身で感じた感覚は右半球で処理されます。
しかし、視覚は例外で、器官(眼)の左右ではなく「視野(見えている範囲)」の左右によって処理領域が分けられています。つまり、左眼の左視野・右目の左視野は右脳へ、左眼の右視野・右眼の右視野は左脳へ送られる、という構造になっているのです。
左右の目に入った感覚情報を送る視神経は、「視交差(しこうさ)」という交差点のような場所で視野に応じて左右に振り分けられます。
一次視覚野で最初の処理が行われる
目から送られた情報は、最終的に後頭葉にある「一次視覚野」という場所にたどり着きます。ここでは、線の傾きや色、運動などの基本的な情報が処理されます。
この段階はまだ“ざっくり”とした分析にすぎず、たとえば「ここは丸い」「斜めの線がある」などの簡単な特徴だけを見分けています。ここからさらに詳しく見ていく工程が続きます。
「どこ」と「なに」を分けて考える|二つの視覚経路
背側経路|「どこにある?」を知るしくみ
一次視覚野での処理を経て、情報は2つのルートに分かれて脳内を進みます。その一つが「背側経路(はいそくけいろ)」と呼ばれる道で、頭の上の方にある「頭頂連合野」に向かいます。
ここでは、モノの位置関係や動きの情報を扱っていて、「あのボールが右から左へ転がってきている!」といった判断を助けてくれます。動いているものを素早く見つけたり、空間の中で自分の位置をつかんだりするときに使われます。
腹側経路|「それは何?」を知るしくみ
もう一つが「腹側経路(ふくそくけいろ)」と呼ばれるルートで、側頭部にある「側頭連合野」へと向かいます。
この道では「それが何か」を詳しく見分ける処理が行われます。たとえば、リンゴの丸い形や赤い色から「これはリンゴだ」と判断したり、人の顔を認識したりするのはこの経路のおかげです。
2つのルートで「見える」を完成させる
このように、背側経路と腹側経路が協力することで、「どこにある」「何がある」という情報を同時に処理できるようになります。単に“見る”だけでなく、“意味を理解する”という、より高度な認知が可能になるのです。
まとめ|見えるって実はすごい
私たちが当たり前のように使っている「視覚」は、実は目だけでなく脳全体が関わる大仕事です。桿体や錐体といった細胞が光をキャッチし、それを視神経が運び、脳が解釈している。見えるというのは「脳が世界を再構成している」ことでもあるのです。
このしくみを知ることで、「どうして暗いと見えにくいのか」「どうして人の顔がすぐにわかるのか」など、日常のちょっとした不思議も納得できるようになります。
スマホやパソコンで目が疲れたとき、「私の脳、今日もがんばってくれてるな」と思って、少しだけ目と脳を休ませてあげるのもいいかもしれませんね。
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